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第二十二話 遠山左衛門のお嬢様、ご出座

Author: 霜月立冬
last update Last Updated: 2025-07-30 10:16:10

 ティン王国で、最も有名な建造物といえは、殆どの者が「王都の王城」と答えるだろう。王城の威容を見た者は、「ピタラ山脈の一部」と錯覚する。

 それほど大きな建造物だと、中の部屋もそれなりの大きさになる。その中でも、一際広大な部屋が有った。

 王城「謁見の間」。

 白いピタラ石製の空間は、そこに足を踏み入れた者に「無限」を直感させた。全ての王都民を詰め込んでも、未だ「空き」が有るかもしれない。

 その広大な空間に、二人の男性の姿が有った。

 壮年、或いは中年と思しき男性と、十代と思しき若者。

 二人は、広間中央部を貫く赤絨毯のど真ん中で、向かい合って立っていた。

 どちらも目を見張るほどの美形だ。それぞれ白を基調とした簡素な衣装をまとっている為、本体の美しさ、「イケメン振り」が一層際立っていた。

 しかし、二人の顔に見惚れる者は存外に少ない。この二人と出会った者は、その殆どが二人の「額」を見た。

 そこには、一般人(ティン族)が息を飲むほどの、巨大な角――ティンが生えていた。

 年配の男性のティンは「大人の手」と錯覚するほど大きかった。

 年若い男性のティンは「大人の腕」と錯覚するほど大きかった。

 それぞれのティンは、「二人がやんごとない身分である」と、雄弁に語っていた。

 そう、二人は王族だった。

 年配の男性はティン王国国王、ムケイ・ティン。

 年若い男性はティン王国第一王子、デッカ・ティン。

 ティン王国の「ツートップ」と言える存在が、彼ら以外誰もいない謁見の間で何をしているのか? その答えは――「全くの偶然」だった。

 一方が呼び出した訳でも、呼び出された訳でもない。二人とも、偶々気が向いて、謁見の間に足を踏み入れただけ。

 今は「親子」として、四方山話に花を咲かせているところ。この機会に、より一層親子の縁が深まれば、二人にとって僥倖だろう。

 しかし、二人ともそれなりに有名人であるが故に、かかわる者も多い。親子水入らずの機会に「水を差す者」も、残念ながらそれなりにいた。

 今日もまた、無粋な輩が一人、「大甕一杯の水」と錯覚するほどの面倒事を持って、二人の許にやってきた。

 デッカ達が談笑していると、開きっ放しの大扉から白いサーコートに身を包んだ「近衛騎士」と思しき男が飛び込んできた。

 若い男性だった。長身痩躯で、デッカと同い年くら
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